アニメ『葬送のフリーレン』をご覧になっていて、ふと耳を澄ませたことはありますか?
勇者ヒンメルの死から始まる、エルフのフリーレンの「人を知るための旅」。
その静謐で美しい世界を彩っているのが、作曲家 Evan Call(エバン・コール) さんの音楽です。
物語の切なさに寄り添い、時には激しい戦いを盛り上げ、そして何より、フリーレンが見つめる「悠久の時」を感じさせてくれるあの音楽。
今回は、そんな素晴らしい楽曲たちがどのようにして生まれたのか、Evan Callさんという人物の魅力や、制作の裏側に隠されたこだわりを、たっぷりとご紹介したいと思います。
どうぞ、温かい紅茶でも飲みながら、音の旅へお付き合いください。
🎵 1. 音楽の魔法使い、Evan Callさんってどんな人?

まずは、この素敵な音楽を生み出したご本人について、少しだけ触れてみましょう。
Evan Callさんは、アメリカ・カリフォルニア州の出身です。
実は彼、少年の頃から日本の文化が大好きだったそうです。
きっかけは、多くの海外のクリエイターと同じく、日本のアニメやRPG(ロールプレイングゲーム)でした。『ファイナルファンタジー』のようなゲーム音楽に心を奪われ、「いつかこんな音楽を作りたい!」と夢を抱いたんだとか。
バークリーから日本へ、情熱の旅路
音楽への情熱は彼を世界最高峰の音楽大学の一つ、バークリー音楽大学へと導きます。
そこで映画音楽(フィルム・スコアリング)を専攻し、ハリウッド映画のような重厚なオーケストラや、映像に合わせて感情をコントロールする技術を徹底的に学びました。
でも、彼の面白いところは、そこで「西洋の技術」だけにとどまらなかったことです。
在学中から日本の民謡や邦楽の旋律、「侘び寂び」といった日本特有の情緒に強く惹かれ、研究を重ねていました。
そして2012年、ついに日本へ移住するという大きな決断をします。
「ハイブリッド」な感性
その後、アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』やNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などで、その才能を一気に開花させました。
彼の音楽の最大の特徴は、「ハリウッド仕込みの壮大なオーケストラ」と「日本的な琴線に触れる繊細なメロディ」の融合です。
西洋のファンタジーでありながら、どこか懐かしく、日本人の心にスッと染み渡るような『葬送のフリーレン』の世界観。
Evan Callさんという「ハイブリッドな感性」を持つ作曲家が担当されたのは、まさに運命だったのかもしれませんね。
🏰 2. 「15世紀より前」の世界をどう描く?

さて、ここからが本題です。
『葬送のフリーレン』のアニメ化にあたり、原作者の山田鐘人先生とアベツカサ先生からは、「15世紀半ばより前の中世ヨーロッパをイメージしている」という、かなり具体的なコンセプト情報があったそうです。
「15世紀半ば」というと、音楽の歴史ではちょうど「中世」から「ルネサンス」へと移り変わる時期。
現代のような豪華なオーケストラはまだ存在せず、素朴な楽器たちが奏でられていた時代です。
架空の「ノスタルジー」を作る

Evan Callさんはこのオーダーを受けて、単純に昔の音楽を再現するのではなく、「現代の私たちが聴いて心地よい、架空のフォークロア(民俗音楽)」を作り上げることに挑戦しました。
もし、本当に中世の音楽様式だけで作ってしまったら、少し古めかしくて、感情移入しにくかったかもしれません。
そこで彼は、「現代的なオーケストラという土台の上に、中世の古楽器を宝石のように散りばめる」という魔法を使いました。
「ケルト音楽」や「北欧音楽」の要素をミックスし、
「どこの国でもないけれど、どこか懐かしい」……
そんな不思議な空気感は、こうして緻密な計算とセンスによって生まれたのです。
🎻 3. 耳をすませば聴こえる、不思議な楽器たち
『葬送のフリーレン』の音楽を聴いていて、
「あれ? 今のこの音、なんの楽器だろう?」
と思ったことはありませんか?
実は、この作品には普段のアニメでは滅多に使われない、珍しい古楽器がたくさん登場しているんです。
ここでは、その一部をご紹介しますね。
① 土と旅の匂い「ヴィエル」と「リュート」

フリーレンたちが馬車に揺られて旅をするシーン。
そこで聴こえる少し擦れたような、温かい弦楽器の音。
あれはヴァイオリンの祖先にあたる「ヴィエル (Vielle)」という楽器かもしれません。

そして、宿屋や焚き火のシーンでポロンポロンと優しく響くのは「リュート (Lute)」。
ギターに似ていますが、もっと繊細で、生活の温もりを感じさせる音色が特徴です。
② エルフの神秘「ニッケルハルパ」
これぞEvan Callサウンドの真骨頂とも言えるのが、スウェーデンの伝統楽器「ニッケルハルパ (Nyckelharpa)」です。
鍵盤がついたバイオリンのような見た目をしているのですが、最大の特徴は「共鳴弦」がたくさんあること。
弾いた音以外も一緒に響くので、まるで楽器自体に天然のリバーブ(残響)がかかっているような、幻想的な音がします。
これが、フリーレンの持つ「人とは違う時間の感覚」や「魔法の神秘性」を見事に表現しているんです。
③ 風のささやき「アイリッシュ・フルート」
広大な草原や、風が吹き抜けるシーンで聴こえる、息遣いの混じった優しい笛の音。
これはケルト音楽でおなじみの**「アイリッシュ・フルート」や「ティン・ホイッスル」です。
決して派手ではないけれど、旅の寂しさや、自然の美しさを静かに語りかけてくれます。
Evan Callさんは、これらの楽器をシンセサイザー(打ち込み)で済ませるのではなく、可能な限り「生演奏」でレコーディングすることにこだわりました。
だからこそ、画面の向こうから「土の匂い」や「風の温度」まで伝わってくるような気がするんですね。
🎼 4. 物語を彩る「静寂」と「激動」のコントラスト
Evan Callさんの楽曲作りには、楽器選び以外にも素晴らしい工夫がたくさん詰まっています。
あえて「音を減らす」勇気
『葬送のフリーレン』は、激しい冒険活劇というよりは、静かな会話や移動のシーンが多い作品です。
Evan Callさんは、齋藤圭一郎監督の意図を汲み取り、「音を詰め込みすぎない」アプローチをとりました。
風の音、足音、衣擦れの音……そういった環境音(SE)が主役になる場面では、音楽は楽器の数を極限まで減らし、そっと寄り添うだけに留めます。
この「余白」があるからこそ、私たちはフリーレンたちと一緒に旅をしているような没入感を味わえるのです。
キャラクターたちの「テーマ曲」
物語の中心となるキャラクターには、それぞれの「テーマ(ライトモチーフ)」があります。

・フリーレンのテーマ:
感情を爆発させるのではなく、淡々と、でも芯の強い旋律。長い音符(ロングトーン)が多く使われ、彼女の生きるゆったりとした時間を表しています。
物語が進み、彼女が人の心を知るにつれて、このテーマも少しずつ温かみを帯びていく……そんな変化にも注目です。

・ヒンメルのテーマ:
もうこの世にはいないヒンメル。彼のテーマは、勇ましいファンファーレではなく、優しくて懐かしい、包容力のあるメロディです。
回想シーンでこの曲が流れるたび、「ああ、ヒンメルは本当に優しい人だったんだな」と、言葉以上に伝わってくるものがありますよね。
戦闘シーンでの「裏切り」
一方で、魔族との戦いや魔法「ゾルトラーク」のシーンでは、中世的な雰囲気をガラリと変えてきます。
生演奏のオーケストラに、重厚なシンセサイザーの低音や、激しいビートをミックス!
これによって、魔族の異質さや、魔法という力の圧倒的なエネルギーが表現されています。
「日常」と「戦闘」の音のギャップ、これも視聴者を惹きつける大きな要因になっています。
✈️ 5. 遥かハンガリー、ブダペストでの録音

この壮大な世界観を音にするため、Evan Callさんは日本を飛び出し、ハンガリーのブダペストまでレコーディングに行きました。
なぜブダペスト? と思われるかもしれません。
実はブダペストのホールやスタジオは、石造りの建築特有の「深くて美しい残響」が得られる場所として、映画音楽の世界では有名なのです。
現地のオーケストラ「Budapest Scoring Orchestra」による演奏は、空気の震え方まで違います。
日本のスタジオのクリアな音も素敵ですが、中世ヨーロッパの教会や城を思わせるあの響きは、現地の空気感があってこそ生まれたものなんですね。
🎙️ 6. Evan Callさんが語る「ここが好き!」
インタビューなどで、Evan Callさんご自身も『葬送のフリーレン』への愛を熱く語っていらっしゃいます。
特に印象に残っているシーンをいくつかピックアップしてみました。
・「蒼月草」のシーン:
ヒンメルの故郷の花を探すエピソード。Evanさんは、過去と現在が交差し、フリーレンがヒンメルとの約束を果たすこの場面にとても心を動かされたそうです。制作時には、その切なさと美しさを表現するために、ピアノと弦楽器で繊細に感情を紡ぎました。
・「日の出」と旅立ち:
第1話のラストなど、夜が明けて新しい旅が始まるシーン。映像の美しさもさることながら、Evanさんはここに「さあ、行こう」という前向きな意思を込めたそうです。ケルト調のリズムが軽やかに鳴り響き、「寂しいけれど、楽しみでもある」という複雑な感情を後押ししてくれます。
監督や音響監督とも綿密なディスカッションを重ね、「このシーンの空気感はどうあるべきか」「キャラクターの体温は何度くらいか」といった感覚的な部分まで共有したからこそ、あれほど映像と音楽が一体化した作品になったのでしょう。
💬 7. ファンのみんなはどう感じた?

SNSや動画サイトのコメント欄を覗いてみると、Evan Callさんの音楽に対する熱い感想がたくさん見つかりました。いくつかご紹介します!
「低音がすごすぎる!」ゾルトラークの衝撃
- ファンの声:
「戦闘シーンに入った瞬間、BGMの重低音が響いて鳥肌が立った!」「ゾルトラークの威力が音でわかる」 - 解説:
日常パートの穏やかな民俗音楽から一転、ハリウッド映画のようなド迫力サウンドへの切り替えに衝撃を受けた方が多かったようです。特にウーファーのある環境で聴くと、部屋が震えるほどの迫力だとか!
「イントロだけで泣ける…」涙腺崩壊の魔法
- ファンの声:
「あの優しい弦楽器の音が流れるだけで、パブロフの犬みたいに涙が出てくる」「セリフがないシーンでも、音楽がフリーレンの気持ちを代弁してくれている」 - 解説:
特にエンディング直前や、回想シーンで流れる静かな曲に対するコメントが目立ちました。「音楽が本体」なんて言葉も飛び出すほど、ファンの心に深く刻まれているようです。
「作業用BGMとしても最高」
- ファンの声:
「サントラを流しながら散歩すると、近所の道が冒険の旅路に感じる」「勉強や仕事中に聴くとすごく集中できるし、心が洗われる」 - 解説:
映像なしでも楽しめる音楽性の高さも評価されています。アイリッシュ・フルートやフィドルの音色は、現代の忙しい日々を忘れさせてくれる癒やしの効果もあるみたいですね。
まとめ:物語が終わっても、音楽は続く

Evan Callさんが『葬送のフリーレン』で成し遂げたこと。
それは単にアニメのBGMを作ったということ以上に、「フリーレンが感じている悠久の時間」を、私たちにも体感させてくれたことではないでしょうか。
言葉少なに語られる物語の行間を、古楽器の素朴な音色と、壮大なオーケストラが埋めていく。
その音楽があったからこそ、私たちはエルフの視点で世界を眺め、ヒンメルたちの残した温かさに触れることができたのだと思います。
アニメの放送が終わっても、サウンドトラックを聴けばいつでもあの旅の空の下へ戻れる。
Evan Callさんの音楽は、作品と同じように、私たちの心の中で長く響き続ける「魔法」なのかもしれません。
まだサントラをじっくり聴いたことがないという方は、ぜひ一度、ヘッドホンで耳を澄ませてみてください。きっと、新しい発見と感動が待っているはずですよ。
(出典・参考資料)
本記事は、アニメ『葬送のフリーレン』公式サイト、Evan Call氏のインタビュー記事、およびファンの皆様の声を参考に構成いたしました。



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