はじめに:時代の節目を刻んだ投票

2023年、週刊少年サンデー2・3合併号にて発表された『葬送のフリーレン』第1回キャラクター人気投票(投票期間は2022年9月21日~10月5日)。これは、単行本累計発行部数が1700万部を突破し、「マンガ大賞2021」で大賞に輝くなど、すでに批評的・商業的成功を収めていた本作が、連載100話という大きな節目を記念して実施した、初の大規模なファンへの熱いアンケートでした。
当記事では、この記念すべき第1回人気投票における全100キャラクターの順位を今一度確認したいと思います。しかし、その目的は単なる順位のリスト化に留まりません。この結果は、後に社会現象となるアニメ化以前の、原作ファンダムの熱量と特性を映し出す貴重な文化資料です。当記事では、その順位を深く掘り下げ、なぜ勇者ヒンメルが主人公フリーレンを抑えて1位に輝いたのか、なぜ宝箱の魔物「ミミック」がトップ3に食い込んだのか、そしてこの結果全体が『葬送のフリーレン』という作品の本質的なテーマ――すなわち、記憶の力、過ぎ去った時間の価値、そして緻密な世界観の魅力をいかに反映しているかを詳細に分析します。
なお、本投票は後に開催された第2回投票とは異なり、各キャラクターが数百万から一千万を超える「ポイント」を獲得する特殊な集計方式が採用されました。この熱狂的なポイント数が示す通り、これはファンの愛情が純粋かつ直接的に表出された、極めて重要な記録なのです。
完全台帳:第1回キャラクター人気投票 全100位


以下に、連載100話を記念して行われた第1回キャラクター人気投票の全順位を示します。上位10キャラクターについては公式に発表された得票ポイントを記載しますが、11位以下のポイントは公表されていません。
| 順位 | キャラクター名(日/英) | 得票ポイント |
| 1位 | ヒンメル (Himmel) | 17,354,803 |
| 2位 | フリーレン (Frieren) | 11,820,565 |
| 3位 | ミミック (Mimic) | 8,701,770 |
| 4位 | マハト (Macht) | 8,079,639 |
| 5位 | フェルン (Fern) | 6,446,329 |
| 6位 | シュタルク (Stark) | 3,877,410 |
| 7位 | デンケン (Denken) | 2,152,167 |
| 8位 | 南の勇者 (Hero of the South) | 1,685,786 |
| 9位 | ザイン (Sein) | 1,559,179 |
| 10位 | 断頭台のアウラ (Aura the Guillotine) | 1,415,105 |
| 11位 | ハイター (Heiter) | 非公開 |
| 12位 | ラント (Land) | 非公開 |
| 13位 | ユーベル (Übel) | 非公開 |
| 14位 | ソリテール (Solitär) | 非公開 |
| 15位 | ゼーリエ (Serie) | 非公開 |
| 16位 | フランメ (Flamme) | 非公開 |
| 17位 | アイゼン (Eisen) | 非公開 |
| 18位 | メトーデ (Methode) | 非公開 |
| 19位 | ヴィアベル (Wirbel) | 非公開 |
| 20位 | ゼンゼ (Sense) | 非公開 |
| 21位 | 剣の里の里長 (Chief of the Sword Village) | 非公開 |
| 22位 | グリュック (Glück) | 非公開 |
| 23位 | 馬鹿みたいにでかいハンバーグ (Ridiculously Large Hamburg Steak) | 非公開 |
| 24位 | ラヴィーネ (Lawine) | 非公開 |
| 25位 | ジャンボベリースペシャル (Jumbo Berry Special) | 非公開 |
| 26位 | エーデル (Edel) | 非公開 |
| 27位 | 腐敗の賢老クヴァール (Qual, the Sage of Corruption) | 非公開 |
| 28位 | レルネン (Lernen) | 非公開 |
| 29位 | 武の極みのお爺さん (Old Man of Martial Arts) | 非公開 |
| 30位 | シュトルツ (Stoltz) | 非公開 |
| 31位 | 驕りと油断で死んだ魔族 (Demon Who Died from Arrogance and Carelessness) | 非公開 |
| 32位 | 脱出用ゴーレム (Escape Golem) | 非公開 |
| 33位 | フォル爺 (Old Man Voll) | 非公開 |
| 34位 | リーニエ (Linie) | 非公開 |
| 35位 | ゲナウ (Genau) | 非公開 |
| 36位 | レクテューレ (Recture) | 非公開 |
| 37位 | 大陸魔法協会の受付のお姉さん (Continental Magic Association Receptionist) | 非公開 |
| 38位 | フリーレンのスカートを捲ったクソガキ (Brat Who Flipped Frieren’s Skirt) | 非公開 |
| 39位 | 荒くれ者たち (Rough Looking Adventurers) | 非公開 |
| 40位 | ラオフェン (Laufen) | 非公開 |
| 41位 | クラフト (Kraft) | 非公開 |
| 42位 | カンネ (Kanne) | 非公開 |
| 43位 | ミリアルデ (Millialde) | 非公開 |
| 44位 | リヒター (Richter) | 非公開 |
| 45位 | 暗黒竜の角 (Dark Dragon’s Horn) | 非公開 |
| 46位 | 全知のシュラハト (Schlacht the Omniscient) | 非公開 |
| 47位 | 戦士ゴリラ (Warrior Gorilla) | 非公開 |
| 48位 | グラナト伯爵 (Count Granat) | 非公開 |
| 49位 | 女魔族の剣士 (Female Demon Swordsman) | 非公開 |
| 50位 | リュグナー (Lügner) | 非公開 |
| 51位 | ファス (Fath) | 非公開 |
| 52位 | レンゲ (Renge) | 非公開 |
| 53位 | 神技のレヴォルテの配下 (Subordinate of Revolte the Godly) | 非公開 |
| 54位 | シャルフ (Scharf) | 非公開 |
| 55位 | エーレ (Ehre) | 非公開 |
| 56位 | ザインの兄 (Sein’s Brother) | 非公開 |
| 57位 | 薬草家 (Herbalist) | 非公開 |
| 58位 | 黄金郷の結界を張った一級魔法使いたち (First-Class Mages Who Cast the Barrier of El Dorado) | 非公開 |
| 59位 | ガイゼル (Geisel) | 非公開 |
| 60位 | 中央諸国の国王 (King of the Central Nations) | 非公開 |
| 61位 | 料理人レッカー (Chef Lecker) | 非公開 |
| 62位 | 神技のレヴォルテ (Revolte the Godly) | 非公開 |
| 63位 | 紅鏡竜 (Red-Mirror Dragon) | 非公開 |
| 64位 | グラナト伯爵領の庭師 (Gardener of the Granat Domain) | 非公開 |
| 65位 | ブルグ (Burg) | 非公開 |
| 66位 | シードラット (Seedrat) | 非公開 |
| 67位 | オルデン家の執事ガーベル (Gabel, Butler of House Orden) | 非公開 |
| 68位 | 水鏡の悪魔 (Spiegel the Water Mirror Demon) | 非公開 |
| 69位 | ノルム商会の会長 (Chairman of the Norm Company) | 非公開 |
| 70位 | 奇跡のグラオザーム (Grausam the Miraculous) | 非公開 |
| 71位 | 不死なるベーゼ (Böse the Immortal) | 非公開 |
| 72位 | フリュー (Frühe) | 非公開 |
| 73位 | 騎士オルデン (Knight Orden) | 非公開 |
| 74位 | ドゥンスト (Dunst) | 非公開 |
| 75位 | ターク伯爵 (Count Tach) | 非公開 |
| 76位 | 剣の魔族 (Sword Demon) | 非公開 |
| 77位 | ユーベルの姉 (Übel’s Sister) | 非公開 |
| 78位 | 玉座のバザルト (Basalt of the Throne) | 非公開 |
| 79位 | 幻影鬼 (Phantom Demon) | 非公開 |
| 80位 | ターク伯爵の執事 (Butler of Count Tach) | 非公開 |
| 81位 | トーン (Ton) | 非公開 |
| 81位 | ブライ (Blei) | 非公開 |
| 83位 | ファルシュ (Falsch) | 非公開 |
| 84位 | 霧を操る魔族 (Mist-Controlling Demon) | 非公開 |
| 85位 | 頑固婆さん (Stubborn Old Woman) | 非公開 |
| 86位 | ヴィルト (Wild) | 非公開 |
| 87位 | ラヴィーネの兄 (Lawine’s Brother) | 非公開 |
| 88位 | 毒極竜 (Venom Dragon) | 非公開 |
| 89位 | グリュック家の使用人 (Servant of House Glück) | 非公開 |
| 90位 | 北側諸国の関所の衛兵隊長 (Captain of the Northern Checkpoint Guard) | 非公開 |
| 91位 | ムート (Mut) | 非公開 |
| 92位 | ドラート (Draht) | 非公開 |
| 93位 | シュタルクの父 (Stark’s Father) | 非公開 |
| 94位 | 北側諸国の関所の城代 (Castellan of the Northern Checkpoint) | 非公開 |
| 95位 | 混沌花 (Chaos Flower) | 非公開 |
| 96位 | タオ (Tao) | 非公開 |
| 97位 | 騎士ヴァルハイト (Knight Wahrheit) | 非公開 |
| 98位 | 閃撃のシュレーク (Schreck the Lightning Striker) | 非公開 |
| 99位 | 隕鉄鳥 (Eisen-Vogel) | 非公開 |
| 100位 | 屍誘鳥 (Leiche-Vogel) | 非公開 |
上位層の分析:過去と現在の柱

揺るがぬ柱:勇者一行とその遺産
この投票結果が何よりも雄弁に物語るのは、『葬送のフリーレン』という作品の根幹をなすテーマです。その最も象徴的な結果が、第1位に輝いたキャラクターにあります。
ヒンメル(1位):不在による存在の勝利
最も衝撃的かつ示唆に富む結果は、物語の第1話で既に故人である勇者ヒンメルが、現役の主人公フリーレンを抑えて堂々の第1位を獲得したことです。これは単なる人気投票の結果を超え、作品の核心的テーマに対するファンの深い理解と共感を示す、一種のメタ的な声明と言えます。『葬送のフリーレン』は、過去がいかに現在を形成し、記憶がいかに永続的な力を持つかを描く物語です。ヒンメルは、その死後もフリーレンの旅路全体を導く精神的な支柱であり、彼の理想や言葉は物語の道徳的羅針盤として機能し続けています。ファンがヒンメルに投じた一票は、単に「イケメンの勇者」への好意に留まりません。それは、この物語の魂そのものへの投票であり、「魔王討伐後」という斬新な舞台設定と、追憶と遺産というテーマにこそ最大の価値があるという、ファンダムからの力強い肯定なのです。
フリーレン(2位)、フェルン(5位)、シュタルク(6位):現在を旅する者たち
主人公フリーレンの2位という順位は、主人公として極めて高い人気を誇ることを示しています。しかし、彼女がヒンメルの後塵を拝したという事実こそが、この物語の構造を完璧に反映しています。フリーレン、フェルン、シュタルクからなる新しいパーティーのメンバーもまた、その「疑似家族」的な温かい関係性、個々の成長、そして愛すべき欠点――フリーレンの無表情なユーモアと魔導書への執着、フェルンの大人びていながら時折見せる子供っぽさ、シュタルクの共感を呼ぶ臆病さと内に秘めた強さ――によって、ファンから絶大な支持を得ています。彼らの高い順位は、現在の旅路が持つ魅力の証明に他なりません。
ハイター(11位)、アイゼン(17位):遠き柱
勇者一行の残る二人、ハイターとアイゼンもまた上位にランクインしています。これは彼らがファンから深く敬愛されている証拠ですが、常に回想で呼び起こされるヒンメルに比べれば、その物語上の直接的な影響力は限定的です。彼らの順位は、物語の基盤を築いた尊敬すべき存在でありながらも、ヒンメルほどには現在の物語に常時介在しない、という作中での立ち位置を的確に反映していると言えるでしょう。
偉大なる物語の力:黄金郷編の寵児たち
キャラクター人気投票は、しばしば「物語の今」を切り取るスナップショットとしての機能を持ちます。今回の投票結果は、その好例と言えます。
マハト(4位)、デンケン(7位):時流が生んだ英雄
主要な敵役であるマハトと、その物語の中心人物であるデンケンが、多くのレギュラーキャラクターを上回る4位と7位という驚異的な順位を獲得しました。この結果の背景には、投票が行われた時期が大きく関係しています。当時、原作漫画では七崩賢マハトと彼に故郷を奪われたデンケンの死闘を描く長編「黄金郷編」が連載の佳境を迎えていたのです。この「リーセンシー・エフェクト(直近効果)」は、人気投票がファンの間でどの物語やキャラクターが最も強く共感を呼んでいるかを示すリアルタイムの指標であることを証明しています。マハトとデンケンの成功は、『葬送のフリーレン』が持つ、長大なアークを通じて脇役に至るまで深い感情移入を促す、卓越した物語構築能力の賜物なのです。
ファンダムの心髄:ミーム文化と愛すべき対象

ミミック現象(3位)
この人気投票で最も特異で、かつファンダムの性質を象徴しているのが、宝箱に擬態した魔物「ミミック」が第3位にランクインしたことです。主要な登場人物のほとんどを打ち負かしたこの結果は、単なる悪ふざけや「ネタ投票」として片付けることはできません。
ミミック(3位):ミームによる共同体意識の表明
ミミックの驚異的な順位は、ファンダムにおける「ミーム(インターネット上で拡散されるネタ)」の力を示す典型例です。しかし、それは単なる組織的な荒らし行為ではありません。ミミックは、本作で最も象徴的な「お約束のギャグ」であり、主人公フリーレンの最大の弱点――すなわち、希少な魔導書に対する飽くなき探求心――を完璧に象徴する存在です。ミミックに投票するという行為は、この作品が持つ独特の空気感、すなわち静謐な哀愁と不条理なユーモアが同居する世界観への深い理解と愛情を示す、ファン同士の「内輪のジョーク」なのです。それは、壮大な戦いや感動的な別れと同じくらい、物語を豊かにする些細でコミカルな瞬間に価値を見出すという、ファンダムからの意思表示に他なりません。ミミックの3位という順位は、この物語の体験において、笑いが涙と同等に重要であることの証明なのです。
些末と不条理への祝福
全100位のリストを精査すると、ファンダムのユニークな愛情がさらに浮き彫りになります。主要キャラクター以外への投票は、この世界の細部にまでファンの愛が注がれていることを示しています。
主要キャラクター以外への投票:世界構築への賛辞
例えば、「馬鹿みたいにでかいハンバーグ」(23位)、「剣の里の里長」(21位)、「荒くれ者たち」(39位)、さらには「暗黒竜の角」(45位)といった、キャラクターですらない存在や一話限りの登場人物が上位にランクインしています。これらの投票は、決して無意味ではありません。それは、作者が作り上げた世界の豊かさと緻密さに対する、ファンからの最大限の賛辞なのです。「馬鹿みたいにでかいハンバーグ」は単なる食べ物ではなく、シュタルクの過去と戦士への労いを描いた感動的なエピソードの中心的なオブジェクトです。剣の里の里長は、一度見たら忘れられない強烈な個性を放つコミックリリーフです。これらの要素に投票することで、ファンは物語の主軸だけでなく、世界を「生きた場所」として感じさせる細部の質感そのものを祝福しています。これは、読者の没入感が物語の筋書きを超え、世界の隅々にまで及んでいることの力強い証左と言えるでしょう。
まとめ:旅路の魂を映す鏡

『葬送のフリーレン』第1回キャラクター人気投票は、単なる順位付け以上の意味を持つ、作品の魅力を凝縮した完璧な縮図でした。
- ヒンメルの勝利は、「記憶」という永続的な力の前に、物理的な存在は絶対ではないという、作品の根源的なテーマを体現しました。
- 黄金郷編のキャラクターたちの躍進は、読者を深く引き込む、長編のキャラクター主導型ストーリーテリングの卓越性を証明しました。
- ミミックやハンバーグの驚異的な人気は、この作品が持つ哀愁とユーモアの独特な融合を、ファンが心から愛していることを明らかにしました。
そして、この投票結果には未来を予感させる、もう一つの重要な兆候が隠されていました。
ファンを惹きつける魅力:爆発的ポテンシャルの先行指標
七崩賢の一人、「断頭台のアウラ」は、この第1回投票で10位にランクインしました。敵役としては非常に高い順位であり、その冷酷な存在感と印象的なデザインが、原作読者の間で既に確固たる人気を築いていたことを示しています。
しかし、この結果は序章に過ぎませんでした。アニメ化後に行われた第2回人気投票で、アウラは2位へと爆発的な躍進を遂げます。この現象は、アニメでの鮮烈な描写と、それに伴うインターネット・ミームの拡散によって引き起こされたものです。重要なのは、アニメが何もないところから人気を生み出したわけではないという点です。第1回投票が示したように、アウラには元々、ファンを惹きつける確かな魅力が存在しました。アニメ化という強力な触媒は、原作ファンダムという土壌の中で既に燻っていたその人気に火をつけ、社会現象レベルのブームへと昇華させたのです。
この意味で、第1回人気投票におけるアウラの10位という順位は、彼女が秘めていた爆発的ポテンシャルの「先行指標」であったと言えるでしょう。それは、原作漫画が持つ確かな魅力と、それを増幅させるアニメ化というメディアミックスの理想的な相乗効果を、見事に予見していたのです。この投票は、過去を振り返るだけでなく、未来への確かな予兆をも内包した、まさに時代の節目を刻んだ記録でした。



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