はじめに：束の間の出会い、忘れえぬ絆
『葬送のフリーレン』の物語において、大陸魔法協会が主催する一級魔法使い選抜試験は、大陸全土から野心と実力を兼ね備えた魔法使いたちが集う、極めて過酷な試練の場です。
魔法都市オイサーストを舞台に繰り広げられるこの試験は、合格者には北部高原への通行許可という特権が与えられるため、参加者たちは己の魔法と信念のすべてを懸けて臨みます。
この熾烈な競争の中で、第一次試験のパーティー分けによって偶然にも結成されたのが、第13パーティーでした。
老獪な宮廷魔法使いデンケン、
現実主義者で実力者のリヒター、
そして若く経験の浅いラオフェンという、
一見すると不釣り合いな三名で構成されたこのパーティーは、その組み合わせの妙から多くの視聴者の注目を集めました。
不吉とされることもある「13」という数字を冠したこのパーティーが、後に忘れがたい絆を育むことになるのは、物語の皮肉であり、また魅力でもあります。
当記事では、この第13パーティーの軌跡を追い、デンケン、ラオフェン、リヒターそれぞれの人物像を深く掘り下げるとともに、第一次試験から第三次試験までの名場面、そして試験の合間に見せた心温まるエピソードを交えながら、彼らが織りなした束の間でありながらも濃密な関係性の本質に迫ります。
彼らの物語は、単なる試験の記録に留まらず、野心、友情、そして目的の再発見といった、『葬送のフリーレン』が描く普遍的なテーマの縮図と言えるでしょう。
第１章：第13パーティーの肖像 ～３人の特徴と個性～
一級魔法使い試験という過酷な舞台で、運命的に集った三人の魔法使い。彼らはそれぞれ異なる背景、魔法、そして哲学を持っていました。
本章では、彼らの旅路を辿る前に、デンケン、ラオフェン、リヒターという個性豊かな三名の人物像を詳述いたします。
1.1 老獪なる宮廷魔法使い、デンケン
片眼鏡と長い髭が特徴的な老魔法使いデンケンは、二級魔法使いでありながら、その実力は一級魔法使いに何ら遜色ないと評される人物です。
彼は「血みどろの権力争い」を勝ち抜き、宮廷魔法使いの地位を築き上げた経歴を持ち、その経験に裏打ちされた老獪さと、戦況を冷静に分析する卓越した判断力を備えています。
彼の魔法は、大規模な戦闘を得意とすることを示唆しています。
「竜巻を起こす魔法（ヴァルドゴーゼ）」で戦場を支配し、「風を業火に変える魔法（ダオスドルグ）」で敵を焼き尽くし、そして「裁きの光を放つ魔法（カタストラーヴィア）」でとどめを刺すなど、その魔法体系は極めて攻撃的かつ多彩です。
しかし、その権力と実力の裏には、極めて個人的で切実な動機が隠されていました。
彼が試験に臨む真の目的は、権力や名声のためではありません。若き日に先立たれた妻・レクテューレの墓参りをするためでした。
彼の故郷は七崩賢「黄金郷のマハト」によって黄金に変えられており、その地への立ち入りには一級魔法使いの資格が必要不可欠だったのです。この悲願こそが、彼のあらゆる行動の原動力となっています。
また、彼が魔法使いを志すきっかけとなったのは、他ならぬフリーレンへの憧れであり、その事実は後の二人の対決に深い意味合いを与えています。
1.2 天真爛漫な韋駄天、ラオフェン
ツインのお団子ヘアが愛らしいラオフェンは、三級魔法使いの少女です。
公式には「魔法使いとしては未熟」とされながらも、「素直で優しい性格」の持ち主として描かれています。その天真爛漫さは、百戦錬磨の魔法使いたちが集う試験会場において、異彩を放っていました。
彼女の得意魔法は「高速で移動する魔法（ジルヴェーア、またはエアファーゼン）」です。
この魔法は直接的な破壊力こそ持たないものの、その驚異的な機動力は偵察や奇襲、離脱など、戦術的に極めて高い価値を持ちます。
パーティー内では、その純粋さから、すぐにグループの中心的な存在となりました。
特にデンケンからは孫娘のように可愛がられ、二人の間には強い信頼関係が芽生えていきます。
彼女の存在は、デンケンの政治的な世界やリヒターの現実主義とは対照的な、温かい光をパーティーにもたらしました。
1.3 現実主義に徹する実力者、リヒター
「いい年したおっさん」を自称するリヒターは、豊富な魔法知識と高い実力を兼ね備えた二級魔法使いです。
彼は目的のためには殺しも厭わない冷酷な一面を持つ一方で、オイサーストの街で魔法店を営むという堅実な顔も持っています。
彼の代名詞とも言える魔法は「大地を操る魔法（バルグラント）」です。
この魔法は、一般的な防御魔法が持つ耐性を圧倒的な質量攻撃で粉砕するほどの力を誇り、彼の戦闘スタイルが極めて合理的かつパワフルであることを物語っています。
当初、彼はラオフェンに試験の厳しさを説くなど、どこか冷めた現実主義者として振る舞っていました。
しかし、デンケンやラオフェンとの交流を通じて、その無愛想な態度の下に隠された面倒見の良さや、人間的な温かさが徐々に明らかになっていきます。
| キャラクター名 | 等級 | 得意魔法 | 性格・特徴 | 最終試験結果 |
| デンケン | 二級 | 竜巻を起こす魔法 (ヴァルドゴーゼ) 等 | 老獪な宮廷魔法使い。目的のためには手段を選ばないが、情に厚い一面も持つ。 | 合格 |
| ラオフェン | 三級 | 高速で移動する魔法 (ジルヴェーア) | 素直で優しい性格。魔法使いとしては未熟だが、高い機動力を持つ。 | 不合格 |
| リヒター | 二級 | 大地を操る魔法 (バルグラント) | 現実主義者で冷酷な一面もあるが、面倒見が良い。魔法店を営む。 | 不合格 |
この三者の構成は、単なる偶然以上の意味合いを持っています。
デンケンは権力闘争や大規模な戦闘の中で力を磨いてきた「古き世代」の魔法使いを象徴しています。
対照的に、リヒターは魔法店を経営するなど、より体系化された社会で専門家として生きる「現代的なプロフェッショナル」の姿を体現しています。
そしてラオフェンは、伝統的な破壊魔法とは異なる特殊技能を持ち、まだ何者にも染まっていない「次世代」の可能性を象徴しているのです。
したがって、第13パーティーは『葬送のフリーレン』の世界における魔法使いの変遷を映し出す縮図であり、彼らの交流は、異なる時代と哲学が交差する対話そのものでした。
第２章：第一次試験 ～生存競争と意外な突破口～
第一次試験の内容は、3人1組のパーティーで、捕獲困難な隕鉄鳥（シュティレ）を日没までに捕獲し、かつパーティー全員が揃っていること、というものでした。
このルールは、受験者同士の熾烈な奪い合い、すなわち生存競争を必然的にもたらしました。
第13パーティーは、その老獪な戦略眼で、フリーレンたちが確保したシュティレを奪うことを画策します。この戦闘では、彼らの見事な連携が光りました。
まずリヒターが「大地を操る魔法（バルグラント）」でフリーレンと仲間たちを分断し、防御魔法を質量で無力化するという戦術的な判断を見せつけます。
孤立したフリーレンに対し、デンケンは持てる最大火力の魔法を次々と叩き込み、二人の熟練魔法使いによるハイレベルな攻防が繰り広げられました。
名場面：デンケンの不屈の闘志
この第一次試験における最大のハイライトは、フリーレンに魔力を使い果たさせられた後のデンケンの行動でしょう。
魔法使いとして最大の武器を失った彼は、決して諦めませんでした。おもむろに上着を脱ぎ捨てると、「腹を括れ。男だろうが」と仲間を鼓舞し、こう叫んだのです。
「殴り合いじゃぁぁぁぁッ！！！」
魔法使いの矜持を捨て、剥き出しの闘争心で他の弱ったパーティーに襲いかかり、拳でシュティレを奪い取るという彼の姿は、視聴者に強烈なインパクトを与えました。
この行動は、単なる奇策や滑稽な場面ではありません。それは、彼の根底にある「妻の墓参りをする」という、何物にも代えがたい悲願が物理的な形で現れた瞬間でした。
彼の宮廷魔法使いという仮面の下にある、純粋で、人間的で、そして切実な渇望が、魔法という手段を超えて彼を突き動かしたのです。
彼の最大の武器が魔法ではなく、その不屈の意志であることを証明した名場面でした。
ちなみに、この後フリーレンに足蹴にされ、ラオフェン共々水没させられるというコミカルながらも容赦のない反撃を受ける一幕も、物語に緩急を与える印象的なシーンとなっています。
第３章：試験の合間のオイサースト ～束の間の休息と深まる絆～
第一次試験と第二次試験の間のわずかな休息期間は、第13パーティーの絆が急速に深まる重要な時間でした。
戦場を離れた魔法都市オイサーストでの彼らのやり取りは、多くの視聴者の心を和ませました。
この期間中、デンケンとラオフェンの関係は、まるで本当の祖父と孫娘のようでした。
デンケンがラオフェンにドーナツを買い与える姿を目撃したリヒターが、思わず
「おいおい。完全に孫じゃねーか」
と呆れ気味に呟くシーンは、彼らの関係性を象徴しています。
さらに、野菜も食べるようにと世話を焼くデンケンの姿は、血みどろの権力闘争を生き抜いてきた彼の姿とは全く異なる、情愛に満ちた一面を浮き彫りにしました。
一方、当初は彼らの馴れ合いを冷ややかに見ていたリヒターも、その心境に変化を見せます。
デンケンが50年前に亡き妻と訪れたレストランを探していると知ると、彼は文句を言いながらもその探索に付き合うことを決めました。
このささやかな行動は、彼の現実主義的な殻を破り、仲間への思いやりが芽生え始めたことを示す重要な一歩でした。
この三人の心温まる関係は公式からも注目されており、デフォルメキャラクターが登場するミニアニメシリーズでは、リヒターの魔法店を舞台にした彼らの日常が描かれ、ファンに愛されるトリオであることが示されています。
この休息期間に生まれた彼らの「疑似家族」的な関係性は、物語のテーマにおける一種の聖域として機能しています。
妻に先立たれ子供もいないデンケンにとって、ラオフェンを慈しむことは、失われた家族の温かさを取り戻す行為でした。
若く未熟なラオフェンにとっては、それは過酷な試験の中での心の支えとなりました。
そしてリヒターにとっては、その皮肉な鎧に差し込んだ一筋の光だったのです。
この束の間の交流は、『葬送のフリーレン』が繰り返し描く「出会いは束の間でも、その絆は人の旅路を豊かにする」という核心的なテーマを体現していました。
第４章：第二次試験 ～『零落の王墓』と絶対的な壁～
第二次試験の舞台は、これまで誰も踏破したことのない迷宮「零落の王墓」でした。
このダンジョン最大の脅威は、内部に潜む水鏡の悪魔（シュピーゲル）が生み出す、侵入者の実力・魔力・技術を完全にコピーした「複製体」の存在です。
試験開始時、パーティーは解散しているにもかかわらず、デンケンが協力体制を呼びかけると、リヒターとラオフェンはごく自然に彼のグループに合流しました。これは第一次試験を通じて築かれた信頼関係の証左と言えるでしょう。
彼らはラオフェンの複製体などに遭遇しても、見事な連携でこれを撃破し、パーティーとしての完成度の高さを見せつけました。
名場面：絶対的な壁、フリーレンの複製体
しかし、彼らの進撃は、絶対的な壁の前に完全に停止します。
フリーレンの複製体です。
デンケンの卓越した戦術眼と、パーティー全員の力を結集しても、その複製体には一歩も及ばず、手も足も出ない状況に追い込まれます。デンケンもリヒターも、通常の戦術では突破不可能であることを即座に理解しました。
この絶望的な戦いは、デンケンたち第13パーティーの弱さを示すものではありません。
むしろ、彼らのような大陸屈指のエリート魔法使いたちですら全く歯が立たないという事実を通じて、フリーレンという存在がいかに規格外の領域にいるかを客観的に証明する、重要な役割を果たしました。
この複製体は、後に現れた本物のフリーレンとフェルンの連携によって、ようやく撃破されることになります。
このフリーレンの複製体との遭遇は、単なる障害ではなく、物語のパワーバランスを示すための巧みな装置でした。
これにより、試験の参加者たちが「一級魔法使い」という頂を目指して競い合っている一方で、フリーレンは全く異なる次元に存在していることが、読者や視聴者に痛感させられるのです。
第13パーティーの敗北は、その伝説的な力を測るための「ものさし」として、極めて効果的に機能したと言えるでしょう。
第５章：第三次試験 ～大魔法使いゼーリエの審判～
最終関門である第三次試験は、戦闘や攻略ではなく、大陸魔法協会の創始者である大魔法使いゼーリエとの一対一の面接でした。
ここで問われたのは、魔法の技量ではなく、魔法使いとしての本質、その魂の在り方でした。
この審判によって、第13パーティーの運命は大きく分かれます。
デンケンは、見事合格を勝ち取りました。
その理由は、ゼーリエの底知れない魔力を目の当たりにした瞬間、恐怖するのではなく、即座に「どう戦うかをイメージした」からでした。その飽くなき闘争心と、強者へ牙を剥くことを厭わない攻撃的な野心こそ、ゼーリエが一級魔法使いに求める資質だったのです。
一方で、ラオフェンは不合格の烙印を押されます。
明確な理由は語られませんでしたが、ゼーリエが求める「勝者のイメージ」を彼女が持っていなかったことは明らかです。彼女の優しさや素直さといった美点は、ゼーリエの価値観においては、最高峰の魔法使いとしては不適格と判断されたのです。
この第三次試験の結果は、一連の試験が単なる実力測定ではなく、ゼーリエによる思想的な選別であったことを明らかにしました。
ゼーリエにとって「一級魔法使い」とは、純粋な強さだけでなく、他者を支配し、ねじ伏せるほどの渇望と野心を内に秘めた存在でした。
権力闘争を生き抜き、不屈の意志を持つデンケンは、まさにその理想像に合致していました。
対照的に、優しさと可能性を象徴するラオフェンは、その基準から弾かれてしまったのです。
この結末は、『葬送のフリーレン』の世界における「強さ」の多面性を浮き彫りにすると同時に、その評価システムが必ずしも「善良さ」や「正しさ」を評価するものではないという、厳しい現実を示しています。
まとめ：一期一会のパーティー、永遠の記憶
寄せ集めの不釣り合いなトリオとして始まった第13パーティーの旅路は、互いを支え合う強固なユニットへと成長を遂げ、そして最後はゼーリエという絶対的な価値観によって分かたれる形で幕を閉じました。
しかし、彼らが共に過ごした時間は、決して無駄ではありませんでした。その物語は、『葬送のフリーレン』の核心的なテーマを凝縮して見せてくれます。
それは、出会いの儚さと、その一瞬一瞬がもたらす美しさ。そして、勇者ヒンメルがフリーレンに教え続けたように、たとえ短い時間であっても、その出会いが人の旅路をいかに深く、豊かにするかということです。
第13パーティーは解散しました。
しかし、妻への愛のために戦った老獪な魔法使いが取り戻した温かい心、守られるだけでなく仲間を信じて戦った心優しき少女の成長、そして皮肉屋の現実主義者が垣間見せた不器用な優しさ、
それらが織りなした絆の記憶は、物語の中で、そして多くの視聴者の心の中で、永遠に輝き続けるでしょう。
彼らの旅は、力を求める道のりにおいてさえ、最も価値ある宝物は、その道中で得られる人との繋がりであることを、静かに、しかし力強く物語っているのです。
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